ベルリンから人生敗者復活戦。

ワーキングホリデーの失敗談を綴る。その失敗の過程と、失敗から出直す、敗者復活戦の過程も勝手に配信する。

ベルリナーレで映画鑑賞:「Mr.Long」日本人監督作品ではあるが4カ国共同製作作品であり、日本人監督作品として唯一最高賞である金熊賞を受賞する可能性のある映画。観客の反応がめちゃくちゃ良かったです!

※昨夜の授賞式では残念ながら受賞を逃しましたが、良い映画であることは変わりないです。SABU監督、またベルリナーレ来て下さい!※

 

ベルリナーレで映画鑑賞「Mr. Long」

こちらの映画、まだ予告編が出回っていないのでベルリナーレで唯一公開されている映画の一部の映像を。殺し屋と少年の交流のシーン。主人公の言葉少なの交流はこの映画の特徴でした。

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SABU監督って誰だろう?俳優でもあり監督でもある、実はベルリナーレと関係が深かった日本人監督です。

監督作品としては2011年の「うさぎドロップ」や堤真一を主演にした1996年の「弾丸ランナー」などがあり、俳優としては日本では既に公開されているマーティン・スコセッシ監督作品「沈黙—サイレントー」にも出演しているとのこと。この癖のある顔はもしかしたら別映画で観たことがあったかもしれませんが、今まで印象には残っていませんでした。 ベルリナーレと縁が深い監督さんらしく、コンペティション部門には2014年にも松山ケンイチ主演の「天の茶助」で出品していて、今回で既に二回目のコンペティション部門出品なるようです。フォーラム部門やパノラマ部門にもずーっと出ていたようなので、かれこれ20年ぐらいベルリンに通っていると時事通信芸能動画ニュースでの取材で答えていました。(1:00後ぐらいにSABU監督のインタビューがあります。3:30ぐらいから映画のワンシーンも見れるのが嬉しい。)

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日本人監督作品としてはこのSABU監督のMr.Longだけが唯一のコンペティション部門参加となっています。つまり今年、金熊賞を取る可能性がある唯一の日本映画なんですね。しかも事前に何の打ち合わせもしていなかった時点でイタリア人、またアフガニスタン人の映画好きな友人に見たい映画リストを貰った際、どちらの友人もこの映画を含めていました。私は無知でしたが、彼の作品は海外で一定の評価を得ているようでした。※映画祭で知り合った映画好きのドイツ人女性も「今のところ一番良かった映画はMr.Long!」と言っていましたから、反応の良さからは受賞に期待も出来るのかもしれません。

 

アジアを舞台に描かれる「ある殺し屋のストーリー」。

今回の作品「Mr.Long」は主演に台湾人俳優チャン・チャンを迎え、撮影は日本と台湾で行われたとのこと。日本語、台湾語、中国語の3カ国語が混じり合い、孤独な殺し屋ロンが東京でのミッションに失敗したことから、ヤクザから逃れる為に都心から離れ、その土地でドラッグ中毒の台湾人女性とその息子、またその地域の人々と交流して行くストリートなっているようです。

 

会場を埋め尽くす観客。チケットは全ての上映が即日完売の注目度の高さ。

この映画もFriedrichstadt Palastで見てきました。平日の22時からの上映にも関わらず、開始1時間前にして長蛇の列!昨日の興奮を引きずっていた私はクタクタだけども1時間前には列に並びます。かなり前に並ぶことが出来たので、会場ではスクリーンど真ん中の素晴らしい席を確保することが出来ました。

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この映画は2時間以上あるのですが、どのシーンも惹き付けられて眠たくなったり集中力が切れることがありません。「面白くなかったら席を立って帰ってしまう」こともあると聞いていた映画祭ですが、途中退席者も(観ていた限りでは)おらず、上映が22時からで終了が深夜を過ぎていたにも関わらず、エンドロールまで観てから帰る人も大半でした。

正直、見る人を選ぶ映画だと思うし、万人に「面白いから勧めるよ!」と言った類いの映画ではないです。救いようのなさとか衝撃的なシーンとかを考えると、「そこのみにて光り輝く」とか「共食い」とかのどうしようもない社会の生活描写に耐えられないとキツいと思います。さらに、この映画、驚くことにコメディーな要素も含まれているんですよ。観客もしっかり笑うし、中盤では「ああ、この映画すごくホンワカしているねえ〜」と和んでしまうシーンも多く、「畳に染み込んで消えない血液の染み」みたいな陰気さと、釣瓶さんの「家族に乾杯」みたいな明るさを同時に観ても同一映画として消化出来る人じゃないと、落差ばかりのストーリー展開を処理しきれないかもしれません。それぐらい入りと出口と途中の寄り道の景色が違いました。ストーリーはご都合主義なところもあったりしたし(アクションシーンが特に)、演出としても「え〜?」なシーンもあって、観客は素直にそのまま失笑していました。とっても緊張感があるはずのシーンなのに、コミカルな動きとかが出てしまっていたんです。でも、それが何度か繰り返された時、「あ、実際の世界も作り物の映画みたいにカッコ良くはないから、真剣なのに動きはコミカルって実はあり得ることなのかもしれない。」と気づかされました。「カッコいい演出の映画」を観すぎて、カッコいいストーリーや演出を見慣れてしまっていたけれども、現実では複合的に物事が進むこともあるし、失笑してしまったシーン(冒頭のリンチシーンで、転げて逃げるところです)のように格好など構わずにギリギリで次に繋がって行くこともあるのだと思いました。

 

映画としての完璧さよりも「確実に爪痕を残す映画」そして観賞後、頭から離れないシーンが多発する、エネルギーに溢れた映画でした。

ここまでだと映画を褒めているのかけなしているのか分からないですけど、私の中ではこの映画はもの凄く好きですし、映画好きの友人にはめっちゃ勧めたいです。とにかく絵が綺麗です。エンドクレジットで「スチール:レスリー・キー」とありました。あーね、あの写真家さんが関わっているのであれば、やたらと絵になりまくるシーンが多かったのも頷けます。そして台湾の俳優さんがすごくいい。主演のチャン・チェンさんがほぼ喋らないのにずっと感情豊かなんです。別に無愛想でも感情が無い訳でもない。コミカルなシーンでは無理矢理にでもその場に参加しようとしているんですよ。変なシャツ着せられたり、変な人にハイタッチさせられたり。メインの殺し屋であるロンも、ドラッグ中毒になっていた母親のリリーも、この映画のストーリーの、その前の前にもストーリーが透けて見えるので、彼らが背負っている絶望の深さも、そこから這い上がろうとする涙ぐましい前進も、全てが息苦しいぐらいに伝わってきて。一緒に嬉しいからこそ、一緒に苦しいし、絶望します。どんな時でも、どんなに痛めつけられても、それでも人と関わって生きて行こうとする強さやしなやかさは台湾の人、独特の人間らしさかもしれないとも思わされました。日本人だとひたすら悲観してしまったり、感情を無くしてしまいそう。この映画は台湾人が主役ですごくあっていたと思いました。

 

素晴らしい俳優さん達の中で一番印象に残った俳優は子役、Runyin Bai。

何故か日本のメディアでは監督よりも出演している日本人俳優の青柳翔さんがよくフューチャーされていたのは気がしたのですが、日本ではもっと監督に注目が集まっているのかな?日本人俳優として重要なキャラクターを担っていたケンジ役の劇団EXILEの青柳翔さんですが、もうEXILEとか偏見はつけずに観たら良いと思いました。普通っぽい男性で、すごく役柄に合っていましたし、とても良かったです。「この人の子供だから必死で産み育てたいと思うんだろうな」と納得させるぐらいな男性を演じていました。今後もっと活躍されるのでしょうね。

でも、私がこの映画で一番印象に残った俳優さんは、主演のチャン・チェンよりも青柳翔さんよりも、誰よりも!子役の男の子、Runyin Bai。この子はスゴかった。一重の切れ長な目が、全ての世界を見つめているのですね。この子は傷ついた殺し屋を助ける子供なのですが、殺し屋に「お前はいつかオレが助けた犬か何か?」とまで言わせるほど健気なんですよ。「かわい〜」と表面で彼を観察してしまう一瞬の後に、「見ず知らずの明らかに危険そうな他人に、それでも近づいていって手助けしようと思うほど他人との接触を望んでいたり」また「他人の痛みを理解出来るほど、子供ながらにして痛みに共感出来る、その共感力が身についた背景」を考えて行くと、どれほどこの子供が孤独であり、「自分を守ってくれるであろう存在を求めていたか」が分かってくると思います。台詞もほとんどなく、たんたんとしたシーンをこなすことが多い役でしたが、この子が笑ったり、一重で切れ長な目が真っ黒に虚ろになったり、表情だけでこの映画の浮き沈みを現していました。ものすごい役者さんでした。英語で調べても情報が見つからなかったのですが、台湾の子役なのかな?韓国映画「私の少女」に出ていた子役の女優キム・セロンがもの凄くて強烈な印象が残っているのですが、彼女を見たときのような印象を今回も受けました。うーん、別の映画でも彼の演技が見たいです。

 

日本人監督作品だけども、日本映画ではない?

この映画はプロダクションが多国籍で、製作は日本、香港、台湾、そしてドイツが出資しているんですね。ドイツがRapid eye movieというケルンにある映画会社であったのが個人的にグッときました。履歴書を送ってお返事すら無かった会社だったのと、何より企業調査をしていた時に「やたらとヤクザやらバイオレンス系の日本映画ばっかり揃えているなー」と思っていた映画会社だったからです。うーん、こう言う映画に出資してくれる会社なのか。私の中では志望度が高かった会社でもあったので、良い会社に履歴書を送っていたのだな、という点で個人的に少し嬉しかったです。ほら、中学校とかで、クラスの皆には人気がない女の子を密かに好きで、成人式あたりで地元に戻ったらやたらとその子が可愛くて「あ、素敵な子に恋してたんだな。」みたいな気持ち。そんな感じですよ。

 

授賞式が楽しみな映画!SABU監督に出会えたことに感謝したいベルリナーレ。

友人とは「この映画が何か賞を取ったら嬉しいね〜」と話していましたが、昨日の映画も良かったし、賞を取るのは簡単ではないのだと思います。でも、是非話題になって、もっともっとSABU監督に映画を撮って欲しいです。ただ、今回ストーリーとしてつじつまが合わないと言うか、ご都合主義になってしまっている展開もあったので、ぜひ次からは予算を増やして、監督のSABUさんには原案と言う形でストーリーを作って頂き、脚本自体は他の人に任せても良いのではないかと思いました。そうすると、もうケチがつかない映画になって行くと思った、という「お前誰やねん」な意見を最後にブチこんで終わります。